同一労働同一賃金・残業抑止など。ホテル業界に関わる「働き方改革」の制度とは
2020.10.09
ホテル全コラム
ホテル経営・マネジメント
業界コラム
2020年4月から政府が最重要視する施策の一つ「働き方改革」に関わる新しい義務などの多くが、中小企業にも適用されました。基本的には働き方改革は、業種や会社の規模に関係なく従わなければなりません。つまり、ほとんどのホテルや旅館などの宿泊施設でも適用されるので、宿泊業に携わるすべての人は働き方改革の概要を知って、対応する必要があります。今回は、経営者・管理者・従業員の誰もが理解すべき働き方改革の基礎的な内容と、特に注意したい「同一労働同一賃金」と「労働時間の抑止」について解説します。
働き方改革とは
「働き方改革」という言葉は、一度は耳にした人も多いのではないでしょうか。働き方に関するたくさんの法律・制度が改正、新設されていますが、それらの目的は大きく分けると「労働時間法制の見直し」と「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」の2つに分けられます。まずはそれぞれの具体的な内容を確認していきましょう。
労働時間法制の見直し
ホテルなど宿泊業界でも、長らく課題に挙げられていたのが従業員の「長時間労働」や「働きすぎ」といった問題です。そこで働き方改革では、長時間労働を軽減して従業員一人一人にぴったりな健康で充実した「ワーク・ライフ・バランスの実現」を大きな目標として掲げています。そのための制度は以下の7点となります。
■労働時間法制の見直しに関わる7つのポイント
1.残業時間の上限を抑制
2.「勤務間インターバル」制度の導入促進
3.1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得義務づけ(企業に対して)
4.月60時間を超える残業の割増賃金率引上げ
5.「フレックスタイム制」の制度拡充 6.「高度プロフェッショナル制度」を新設
7.労働時間の状況の客観的な把握を義務付け(企業に対して)
上記のうち、宿泊業界は時間や日、シーズンなどで繁忙期が異なるので、特に1・2・3に対応するには人材不足の解消や業務の効率化などを図らなければならないケースも多く、特に宿泊業は早めに対処する必要があると考えられます。
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
パートやアルバイト、派遣という形でスタッフを雇用しているホテル経営者と、実際に「非正規雇用労働者」として働いているホテルスタッフに関連する施策が「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」です。長年、業界でも指摘されてきた「正規労働者と非正規労働者の待遇格差」を解消するのが目的で、以下の3つのポイントが重要な内容になります。
■雇用形態に関わらない公正な待遇の確保に関わる3つポイント
1.不合理な待遇差をなくすための法整備(同一労働同一賃金ほか)
2.労働者に対する待遇に関わる説明義務化
3.裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備
すべて正社員で経営しているホテルや旅館は多くはないと思います。そのため、違反すると罰則がある1などはほとんどの宿泊施設の管理者側は知っておく必要があります。また、雇用される側のスタッフも、労働環境が「働き方改革」に対応しているのか調べるためにも諸施策の大まかな内容を知っておいて損はありません。
今回は今まで紹介した具体的な内容のうち、「同一労働同一賃金」と「残業時間の抑制」のルールなどを紹介します。
働き方改革:同一労働同一賃金とホテル
2021年4月までに、すべての宿泊施設で対応しなければならないのが「同一労働同一賃金」です。同一労働同一賃金とは「職務内容が同じであれば、同じ金額の賃金を払わなければならない」という制度です。2020年4月、大企業に適用されて1年後の2021年4月に中小企業もこのルールを守らなくてはならなくなります。
ホテルのフロント、客室清掃などに正規労働者と非正規労働者が混在していて、さらに勤務時間や業務内容も一緒の場合、同じ賃金を払わなければならなくケースが考えられます。先行して導入された大手企業がどのような対策をとったのか、確認してみましょう。
同一労働同一賃金の対策例1:全従業員の雇用形態の把握
現在の勤務・賃金体系が同一労働同一賃金に違反しているのか調べるためには、ホテルや旅館などで働く全てのスタッフの雇用形態」を一度まとめなければなりません。さらに非正規労働者と正規労働者の手当や賞与を含む給料の差額や計算方法に違いがあるかを確認します。当然、働いている従業員が多くなるほど、時間がかかるほか、小規模の宿泊施設でも書類が電子化していない場合は思った以上に確認に手間取る可能性が高まります。
そのため、事業規模に関わらずすべての宿泊施設は、まずは雇用形態の把握からはじめてみましょう。
同一労働同一賃金の対策例2:現在の待遇の正当性を確認
確認後にその正当性(業務範囲・労働時間の違いなど)をしっかりと説明できるまで、根拠を明らかにしなければなりません。というのも、同一労働同一賃金が施行されると従業員から待遇について質問されると、企業側は答えなければならない義務が発生してしまうからです。もし、正当性が認められなかった場合は現在の待遇を見直す必要があります。
同一労働同一賃金の対策例3:待遇差を見直す
雇用形態の違いによる待遇差を見直す方法は、大きく「仕事内容や役割の差を明確化」、「賃金の見直し」、「賃金規定・就業規則の改定」、「フルタイムパートの正規労働者化」などが挙げられます。賃金の見直しやフルタイムの正規労働者化は人件費増によるコスト負担、仕事内容の見直しにはある程度の時間がかかることが想定されます。いずれの方法をとるにしても、早めに動いておいて損はありません。
働き方改革:労働時間の上限規制とホテル
働き方改革によって、労働時間は原則「月45時間・年360時間」と定められました。これまでは明確な基準はなく、長時間労働させても罰則はありませんでしたが、働き方改革による労働基準法の改定によって違反すると「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が設けられました。この法律は2019年4月から大企業、2020年4月に中小企業に適用されているので、原則、すべての宿泊施設はこのルールを守らなくてはならないです。
夜勤や繁忙期の対応など、残業が発生しやすい環境である宿泊業界にとって「労働時間の上限規制」はとても大きな課題といえるでしょう。従業員の労働時間を減らしつつ、現場をこれまで通りに回すにはどのようにすればいいのでしょうか。
その一例を最後に紹介します。
労働時間の上限規制対策1:シフトの見直し
宿泊施設を運営するには、シフト制度が欠かせません。まずは既存のシフトを組むうえのルールに改善点がないかチェックしましょう。「待機時間」、「同時並行できる作業」、「ヘルプを入れるタイミング」などを注視することで、現在の業務のムダに気づき、最適な人員配置につながります。
労働時間の上限規制対策2:現場の業務の見直し
シフトと同様、現場の効率もムダがあれば取り除きましょう。さらにリネンワゴンやIoTのように現場作業の効率化とスピードアップに関わるツールを導入して、労働時間の上限規制に対応する企業も少なくありません。
2021年4月までに職場の見直しを!
先述したとおり、同一労働同一賃金や労働の上限規制は一朝一夕では改善できません。既に適用している制度も少なくありませんが、取り急ぎ、同一労働同一賃金が中小企業も対象になる2021年4月までに概要を理解し、現状を把握。さらに課題があれば改善しておかなければならないことは、ホテルの経営・管理側やスタッフの両方が理解しておきましょう。