どうなる?コロナ禍の大学生活――学生の心と体、どちらにも寄り添った感染症対策
2020.11.04
業界コラム
コロナ禍での緊急事態宣言、手洗いやマスクの徹底、テレワークやオンライン授業など就業・就学の形式の変化……ニューノーマルと呼ばれる新しい常識・生活様式は、老若男女問わず影響を及ぼしました。
とくに無症状の感染者が多く発生した20代の若者が通う大学では、登校の制限やオンライン授業への切り替えなど影響を大きく受けています。
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コロナ禍の大学生が感じている不安とは……?
全国の大学生・大学院生にコロナ禍の大学生活で感じる不安のアンケートを行った結果、下記のような声が多くあがりました。
・経済的な不安
コロナの影響でアルバイトができず、生活費・学費が厳しい。
実家・親の経済状況がコロナの影響で悪化し、相談できない。
大学院生は日本学生支援機構の給付型支援金の対象外のため、経済的不安が一番大きい。
・コミュニケーション不足によるメンタルの不安
地方から上京し一人暮らしを始めたが、一度も登校できず誰とも顔を合わせていない。
さまざまな不安を相談できる友人が作ることができず、一人で悩んでしまう。
・学費に対する不満、不安
オンライン授業が続くなか、従来のカリキュラムのまま学費を全額支払うのは厳しい。
パソコンやインターネット回線など、オンライン環境を整える費用負担が大きい。
研究室・図書館などが使用できないため、十分な実験ができず必要な文献も得られない。
・就活、進路など将来に対する不安
実習などが延期になり、国家試験に必要な受験資格が得られない可能性がある。
コロナの影響で企業説明会などが中止、就活自体もオンライン化が多く不安。
コロナ禍が長引くため、留年や休学を視野にいれている。
学生が抱える不安の多くは「通常の授業が行われていないこと」「経済状況の悪化」「コミュニケーション不足」によるものでした。
このため、大学では学生のメンタルに寄り添いつつ、対面授業の再開のために様々な感染症対策を行っています。
国公立大学の新型コロナウイルス感染症対策例
・東京大学
東京大学は他の大学と比べ珍しい、キャンパスごとに教育内容・研究内容を分けた『キャンパス分立体制』をとっています。学生の約半数が東京以外の地方出身者であり、メンタル・医療の両面からサポートを実施、また学生・教職員それぞれが感染防止のために自律的な行動の促進を行っています。
【独自の活動制限指針】
感染拡大が続くなかでも研究・教育活動を実施していくため、4~0.5の5段階でキャンパス内の活動を制限する。現在は最も制限度が低い0.5の状態で、感染対策を強化しながら研究活動、オンライン講義を中心の授業を行う。
【保健センターの充実】
本郷・駒場・柏の3キャンパスそれぞれに設置されている保健センターで、感染に関する不安相談、必要であればPCR検査ができるような体制を整える。
【学生・教職員専用サイトを活用した入構管理】
登校・出勤する学生及び教職員がキャンパス内に入構する際には、専用サイトに体温、体調の報告登録し、サイトから送られてくる「入構可」のメール提示を必須にする。
【感染防止のための自律的な行動の促進】
新型コロナウイルス接触アプリ(COCOA)の使用を推奨、登校日・出勤日のキャンパス内での行動を記録、各自で2週間分を保管する。
・山梨大学
教育学部、工学部、医学部、生命環境学部といった実験や実習が多い学部の多い山梨大学。授業内容や時間に制約があっても、学生が意欲的・積極的に取り組めるような環境を整備する対策を行っています。
【ハイブリッド授業の実施】
学生を小人数グループにわけ、修得している内容に応じてオンライン授業と対面授業を 組み合わせて実施。
【感染リスクに配慮した座席配置】
感染率が高いといわれる対面の着席を避け、座席間隔を空けて同一方向を向いた座席での授業を行う。
【効率的な実験授業の実施】
授業回数が限られているため、実験過程の一部を教員が準備し、実験時間の短縮を図る。省略された実験内容については授業内で十分なフォローアップを行う。
・宮城大学
看護について研究・教育する「看護学部」、各種事業を総合的にプロデュースする人材を育てる「事業構想学部」、食に関する内容を幅広く学習する「食産業学部」の3つの柱で地域社会に貢献する人材を育成する宮城大学。しっかりとした感染リスクに対する知識を共有し、効果的な感染症対策を実施しています。
【キャンパス内の動線】
キャンパスにおいて、学生や教職員の入構・退講の動線が重ならないような入退館方法のレイアウトを作成し、わかりやすく周知する。
【学生証を使用した3密対策】
サーマルカメラを使用した検温、手指消毒の徹底、読み取り機械に学生証をかざし入退館を記録。
【対面授業実施のための環境整備】
多目的ホールを改修、大講義室として授業に活用。固定机・椅子を撤去し、移動可能な机へ変更してソーシャルディスタンスを保つ。換気に必要な空調設備や窓の改修を行う。
私立大学の新型コロナウイルス感染症対策例
・同志社大学(京都府)
京都府内に2つの校地があり、14学部・16研究科を設ける同志社大学は、学生数約3万人の大規模大学のひとつ。大勢の学生や教職員を感染クラスターから守るために、独自のガイドラインと、誰もが判断しやすい感染対策フローチャート・学生健康診断・行動記録表の作成などを実施しています。
【独自のフェーズ分け】
秋学期からネット配信授業と対面授業を併用して再開する予定のため、大学独自のガイドラインを設定。卒業論文の指導に重要な実験の実施など、重要度ごとに4段階にわけて入構制限を解除していく。
【入構ルールの周知と徹底】
学生・教職員への出向可否をわかりやすく判断できるフローチャートの作成、新型コロナウイルス接触アプリ(COCOA)の使用、行動履歴を自己記録するなど個人でできる対応の周知。
・関西国際大学(兵庫県)
開学当初から“学生支援センター”を設置し、学習面・生活面に不安のある学生たちが相談しやすい環境を整えている関西国際大学。コロナ禍では学生のメンタルに寄り添った対策を徹底しています。
【学生の気持ちを重視したコロナ対策】
6月から、対面・オンラインどちらの授業を希望するかは学生自身が選択。対面授業を希望した学生には許可証を配布し、移動中の感染防止のため一部区間でスクールバスを増便・無料化する。
【学生状況調査に基づいた解決対策の実施】
オンライン授業に欠かせないパソコンやWi-Fiルーターの無料貸出し、大学独自の奨学金制度、当座の生活費の支払いが困難な学生への最大10万円緊急貸付など、学生からリアルに調査した「困りごと」解決のための措置。
・エリザベト音楽大学(広島県)
歌唱や楽器演奏など、どうしても飛沫がともなう行動が欠かせない音楽大学。さらにオンラインでは指導しきれない部分をカバーすべく、実技科目での感染症対策に特化した工夫を取り入れています。
【実技レッスンのために特化した飛沫対策】
歌唱・楽器を使用する授業は、オンラインでは音質・音色・強弱など微妙な音の違いを正確に聞き分けることが難しい。このため、実技レッスン用に高さ2メートルほど、3面で学生を覆うパーテーションを導入。通常よりも背の高いパーテーションにより、演奏や歌唱等により飛沫を防いでいる。
【音楽大学ならではの対策】
全学生に対し、携帯用アルコールや合唱用マスクの配布、学内のピアノ全てに拭き取りクロスを設置、演奏用ホール等の広い教室を活用してソーシャルディスタンスを保った対面授業の実施など。
長引くコロナ禍のなかで、貴重な大学生活の時間が奪われてしまう日々が続いていますが、
紹介した大学以外でも、それぞれの学部や特色にあわせ様々な感染症対策や奨学金制度などが取り組まれています。