大学のなかの「SDGs」――いつもの毎日のなかで“持続可能な開発目標”を取り入れる
2022.07.13
業界コラム
2015年の国連サミットで、加盟国の全会一致で採択された『持続可能な開発のための2030アジェンダ』。環境、人権、貧国、ジェンダーなど地球上に住むすべての人に関わる様々な問題を解決する――2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すこと。
それが「SDGs(持続可能な開発目標)」です。
目標は17のゴール・169のターゲットで構成され、発展途上国・先進国のわけへだてなく、地球上の「誰一人取り残さないこと」を誓っています。
もちろん、日本も個人から企業・政府まで積極的に「SDGs」について取り組んでいます。
日本の大学は「SDGs」に積極的に取り組んでいる
「SDGs」は、世界中の大学で様々な形で取り組まれています。
持続可能な開発目標で掲げられている「17のゴール・169のターゲット」にはたくさんの項目があります。
大学ではそれぞれの目標に沿いながら
・環境問題などを解決するための研究、開発
・ジェンダー、貧困問題などを解決する取り組み
・人種や性別で差別しない組織作り
・大学構内での「SDGs」に配慮した環境作り
・大学内だけでない、地域との連携を伴った活動
など、様々な活動を行っています。
このように、「17のゴール・169のターゲット」を達成するため、大学が行っている取り組みが、どれくらい社会・経済に影響を与えているのか?
それを数値化したのが『THE大学インパクトランキング(THE University Impact Ranking )』と呼ばれています。
2022年のランキングでは、31の国・地域から616校がランクインしています。
なかでも日本からは、118校が参加対象となり、参加する各国のなかで最も多いランクイン数となっています。
“投資”というもうひとつの視点から見てみる、大学と「SDGs」
近年、SDGsへの取り組みは、投資家がどの企業・団体などに投資するかの判断基準にもなっています。
これまでの投資判断の基準は、主に財務情報に重きが置かれていました。
しかしSDGsの意識が広まるなか、社会・環境などの課題を解決するためにより貢献している会社・団体が投資先として選ばれるようになってきたのです。
企業・団体からすると、資金調達のためにも、SDGsの取り組みについて情報発信することが重要です。
そして新たに、「SDGs債」という債券も発行されるようになりました。
通常の債券とは違い、SDGsの達成に向けて、社会・環境問題の解決のために資金を使うことが限定されています。
企業だけではなく、海外では2010年頃から大学でも SDGs債を発行するところが増えてきました。
大学の財源は、学生の納付金(授業料等)・国や地方公共団体の交付金・補助金等・研究等による収益、債券や銀行借入などです。2020年、世界の大学における SDGs債の発行額は約23億ドルとなりました。
また、2020年10月に東京大学が日本初の大学SDGs債を発行しました。今後、日本の大学SDGs債は広がってゆくのではないかと思われます。
「SDGs」を「自分ごと」に変えてゆく
大学でのSDGsの取り組みは、国立・私立に関わらずどのような活動をしているのか積極的に発信しています。
研究や環境作り、学生同士での情報共有、地域との連携など、多岐にわたる活動を行う学生の数は年々増えています。
しかし、SDGsを達成するために必要なことは、“習慣化・継続化”すること。
意識を高く持つことは、研究や啓蒙活動だけではないのです。
大学生として過ごす毎日のなかで、SDGsを「自分ごと」として一人一人が意識すること。
そのために必要なのは、自分の身の回りにあるものに対しての想像力です。
・どうやって作られたのか?
・必要でなくなったとき、どこへいくのか?
生きるために必要なもの、快適に暮らすためにあるもの、自分に関わるすべての「もの」への想像力を働かせると、「SDGs」が「自分ごと」へと意識しやすくなるはずです。
一番取り入れやすくて、誰でも参加できること。
SDGsの17のゴールのなかでも「12:つくる責任、つかう責任」は、普通に暮らす毎日のなかで取り入れやすい目標です。「つくる責任」は、企業が担うものというイメージが強い目標ですが、“どういう過程で作られたものか”を知っておくという側面もあります。
不特定多数の生徒や職員が行きかう大学キャンパス。
誰もが使う・接するもののなかで、「12:つくる責任、つかう責任」に一番近いのは“ゴミ箱”ではないでしょうか。
リサイクルを意識する、ゴミ分別をしっかり行う、出来る限りゴミを出さないようにする――それでも、やはりゴミを完全にゼロにするのは難しいことです。
ひとつの例を出して、大学生活のなかで“いつもの”“誰でも”を少し変えるだけで、どれくらい大きな影響が広がっていくかをイメージしてみましょう。
ゴミ袋でSDGs――小さな変化は大きく広がる
大学内のキャンパスなどに設置されているゴミ箱は、ほとんどが駅や公共・商業施設に置かれているような中型・大型サイズのものです。
また、きちんと分別するために同じ大きさのゴミ箱が数種類並んで置いてある光景を目にすることも多いと思います。
キャンパス内にあるゴミ箱に使うゴミ袋を、SDGsに配慮した製品に替えるとどうなるでしょうか。「通常のゴミ袋」から「エコ再生100%のゴミ袋」に替えた場合で考えてみます。
エコ再生100%のゴミ袋を使うことで出来ること――それはCO2排出量削減です。
どれくらい削減できるのかをイメージする方法のひとつに「杉の木換算」があります。
【杉の木換算から見るCO2排出量】
・人間1人が呼吸で排出するCO2量――1年間で約320kg
・成長した杉の木が吸収してくれるCO2量――1年間で約14kg
人間1人の呼吸のためには、1年間で杉の木23本分(約320kg)が必要。
【エコ再生100%のゴミ袋を使用した時の削減量】
ゴミ袋300枚を使用した場合で換算すると……
・70リットルサイズで削減できるCO2量――約51.8kg(杉の木7本分)
・90リットルサイズで削減できるCO2量――約64.8kg(杉の木9本分)
このように、ゴミ袋をSDGsに配慮した製品に変更するだけで、CO2排出量削減に取り組むことができるのです。
エコ再生100%のゴミ袋は、通常のゴミ袋よりもややコストがかかります。
しかし“いつもの”を替えるだけで、SDGsへの貢献が見込める大きな変化となるものです。
ほんの少しが、未来へと繋がっていくことを知る
毎日の生活や習慣を大きく変えるのは、とても難しいものです。
大きく社会を変えるような環境作りや研究も、すぐに叶えられるものではありません。
「SDGs」と聞くと、どうしても自分には関係ない、自分ひとりが何かをやっても地球の未来が変わるなんて思えない……と思ってしまいがちです。
ゴミ袋を変える・ゴミの分別をしっかり行う、そんな“毎日の習慣”だけでも、「SDGs」だと知る――それが、大きなゴールへの第一歩になるということ。
これからの未来を担う若い世代へ、どんどん広がっていってほしいイマジネーションです。