日本のホテル独特の「おもてなし精神」。海外の客室清掃・サービスの違い
2020.04.15
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オリンピック招致の際に一躍有名になったのが、日本の「おもてなし精神」です。特に接客業であるホテルやサービス業の清掃現場とは深い関わり、普段からおもてなし精神を重視したり、標語に掲げている現場も少なくありません。今回はそのような客室清掃・ホテル清掃とおもてなし精神の関わりとメリット・デメリットについて解説します。
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日本の客室清掃・ホテルの「おもてなし精神」とは
日本の独特の接客文化「おもてなし」とは、どのような意味なのでしょうか。「もてなす」に丁寧語の「お」を付けた言葉で、一般的には「相手を気遣って心配りする」という意味を持ちます。似たような言葉に歓待・厚遇という意味の「Hospitality(ホスピタリティ)」があります。微妙にニュアンスが異なるシーンもありますが、ホテルや客室清掃の現場では同義の言葉として活用されることが多いです。他に混同されやすい「サービス」、「マナー」の違いについて、以下でまとめたのでチェックしてください。
ホテル・客室清掃員に求められるマナー
マナーとは、接客する相手に不快な思いをさせないための最低限の礼儀作法です。ホテルに勤める全てのスタッフが心得るべきことですが、世界の国や民族などによってマナーも異なるので多くを学ぶ必要があります。
ホテル・客室清掃員に求められるサービス
とても身近な言葉である「サービス」ですが、その語源は実はラテン語の「servitus(奴隷)」に由来しています。おもてなしやホスピタリティに比べると、サービスは相手との利害関係が明確で「相手が支払う対価(お金など)に十分なものを提供できるか」という点が求められます。
ホテル・清掃における「おもてなし」の具体例
おもてなし精神のメリット・デメリットに解説する前に、ホテル清掃・客室清掃における「おもてなし」の具体例を2つ紹介します。
インスペクターの存在
客室清掃後のチェックを担う「インスペクター」も実は、おもてなし精神やホスピタリティが密接に関わるとされています。高級ホテルではインスペクターのチェック項目は数百にも及ぶことも珍しくありません。インスペクションの際は靴を脱いで入室するほか、「ゲストがベッドに座ったときに見える備品の配置や角度の調整」など、常に利用者目線に立ち、非常に時間と手間がかかる作業を一つ一つこなすには相手を思いやる精神が欠かせないのです。
客室に折り紙、テーブルに花瓶など。細かなアメニティのこだわり
客室清掃が完了した際、テーブルなどに折り紙や手書きの手紙を添えて置くホテルもあります。ベッドのシーツ交換など「利用者が過ごしやすい空間づくり」という点からは、若干異なるものの、ゲストに対する心遣いがなければできることではありません。また、エレベーターに花瓶を設置し、花をさすなどの「+αの気配り」などが客室清掃における具体的な「おもてなし精神」の例に挙げられます。また、最近導入されることが多い無料wifiの導入も利用者に配慮したおもてなしの一つではないでしょうか。
日本の「おもてなし文化」のメリットとデメリット
多くのホテルや清掃現場で推奨されている「おもてなし精神」や「おもてなし文化」ですが、実はメリットだけではなく、いくつか問題や課題が指摘されています。一見すると良いことばかりのような「おもてなし」にどんなデメリットがあるのでしょうか。そのメリットと併せて紹介します。
おもてなしのメリット
おもてなしのメリットとしては、リピーターやホテルの評価に直結する「CS(顧客満足度)」の向上につながることです。また、先述した折り紙など日本文化も取り入れたおもてなしを目当てに海外観光客が宿泊するケースもあるようです。
おもてなしの課題・デメリット1:サービス過剰
一般的に外国人と日本人では、サービスの対価に対する考え方が異なります。日本人は無料でおもてなしを受けることがごく普通だと認識されやすい傾向がある一方、外国人は良質なサービスには対価を支払う習慣が根付いていることが多いのです。ホテルの現場で顕著なのが「チップ」の存在です。無料で多くのサービスをすることが、必ずしも施設の利用者が快く思うわけではありません。この認識の不一致が、逆におもてなしの文化を受け入れてもらえず、かえって居心地が悪くなるなど逆効果につながる恐れがあります。
おもてなしの課題・デメリット2:クレーム対応
利用者の立場に立ちすぎるあまり、理不尽なクレームにも頭を下げてしまうケースも少なくないといいます。もともと、「おもてなし」は双方の信頼関係と譲歩によって成り立つと考えられています。過剰なお客様扱いが、その信頼関係を崩してしまいクレームが増えるリスクがあります。
従業員も利用者も余裕があるからこその「おもてなし」
先述した課題を解決するには、利用者の要望を正しく理解し、それに応える形でもてなす必要があります。また、もてなす側の従業員も作業や仕事の余裕がなければ、「おもてなし」が大きな負担になりかねません。先述した数百のチェックポイントを確認するインスペターも、効率的なマニュアルと長年の経験、知識があるからこそ実現できているのです。おもてなしを強化する前に、まずは客室清掃員やフロントの従業員などの業務を把握し、効率化してから臨むべきではないでしょうか。
認証試験もある日本の「おもてなし」
先述のような課題を解決するために、時代に則した「おもてなし文化」を作り上げようとする動きもあります。その一つが「日本の宿 おもてなし検定委員会」です。日本旅館協会や観光庁、大手旅行団体などが参画しており、1級(指導)、2級(応用)、3級(基礎)の段階ごとにペーパー試験などが実施されています。それぞれに求める能力と審査方法を以下にまとめたので確認してください。
■日本の宿 おもてなし検定
審査方法 | もとめる能力 | |||||
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1級 |
・筆記 ・実技 ・作文、面接 |
・おもてなしに必要な知識と実務能力を兼備する ・指導、育成できるレベル |
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2級 | ・WEB試験 |
・ケースバイケースでお客様の要望を察し、適格なサービスを提供できる ・お客様からの満足とプラス評価をコンスタントに獲得できる |
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3級 | ・WEB試験 |
・お客様から好感を得られるレベル ・標準化された業務の対応 |
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適切なおもてなしでサービスの向上を
「おもてなし」の概要とポイントなどを解説しました。客室清掃はフロント業務と比べると、利用者と直接関わる機会は多くはありません。ただ、間接的にでも利用者をもてなす方法はたくさんあります。自身の業務を効率的に行って余裕を生み出しながら、身近なおもてなしのスキルから磨いてみてはいかがでしょうか。