客室稼働率に直結。ホテル・旅館の宿泊者の増減に関わる要因とは
2020.06.18
ホテル全コラム
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一定の期間内における客室の利用率を示す「客室稼働率」は、ホテルや旅館の収益に直結するだけではなく、客室清掃の繁閑も左右する宿泊業の重要な指標のひとつです。管理者はもちろん、フロントや客室清掃員などホテル内外問わず、関係者は客室清掃について理解を深めておいて損はありません。今回は客室清掃の計算方法などの基本的な情報と、増減に関わるポイントをまとめたので、ぜひ確認してみてください。
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客室稼働率とは
客室稼働率は「OCC(Occupancy rate)」とも言われます。先述したとおり、「一定期間の客室の利用状況」を示しており、ホテル経営におけるとても重要な数値です。当然ですが客室室稼働率が高ければ、「部屋が使われる=売り上げが上がる」ので利益が確保できているといえます。逆に客室稼働率が低ければ、少なくとも事業継続できる水準まで客室稼働率をアップさせる施策を練る必要があります。このように施設の管理者やオーナーは、客室稼働率の推移や状況に常にアンテナを張り、イベントやキャンペーンの企画、客室の料金設定などにつなげているのです。
客室稼働率の計算方法
実際の客室稼働率の計算方法を確認していきます。宿泊施設における客室稼働率の一般的な計算は、その施設の「供給可能なすべての客室」から「一定期間内に利用されたすべての客室」を割ってその比率を算出します。計算式とその例を以下で確認してください。
客室稼働率の計算式と例
目的:ホテルAの1日の客室稼働率を把握する
条件:ホテルAの可能な客室数は500室、その日利用された客室数は450室だった。
計算式:客室稼働率=利用された客室数÷供給可能な客室数×100
以上の条件を計算式に当てはめると、次のように表すことができます。
450÷500×100=90%
よって、ホテルAの1日の客室稼働率は90%であるということが明らかになりました。逆に空室率は10%であることも分かります。今回は、最も理解しやすい客室を基準にしましたが、面積やベッド数から算出するケースもあります。ゼロから客室稼働率について理解を深めたい人は、まずは身近な宿泊施設の客室稼働率とその基準から調べてみてはいかがでしょうか。
客室稼働率と客室清掃の関わり
客室稼働率が高ければ、清掃しなければならない部屋数が増えるので管理者は客室清掃員の確保やスケジュール調整、現場のスタッフは効率的でスピーディーな清掃が求められます。ベッドメイクや客室清掃を行う人材は、慢性的に不足しがちなため、客室稼働率を上げるだけでなく、業務のクオリティを維持するための施策と技術の向上が、管理者と現場作業者は図らなければなりません。
客室稼働率の変動に関わる内部的要因
客室稼働率が上下する理由は、ホテルそのものに起因する「内部的要因」と世相や流行などの「外部的要因」の2つに大別できます。客室稼働率を理想値に近づけるためには、それぞれの要因を把握してケースバイケースで適切に対処しなければなりません。以下で代表的な要因を紹介するので参考にしてください。
内部的要因1:顧客満足度
客室稼働率と同様、ホテル経営において重要な指標が「顧客満足度(Customer Satisfaction)」です。利用者の需要に適したサービスの提供や質を向上することで、顧客満足度はアップし、客室稼働率の改善にもつながります。逆に顧客満足度の低下は客室稼働率の悪化につながります。一方、サービスが行き届かなくなるほど客室稼働率が高くなると、顧客満足度は減少に転じるケースも少なくありません。
内部的要因2:宿泊料金
月間や平日と祝日、客室のタイプによって客室稼働率に差があり、理想値から大きく乖離している状況だと「宿泊料金」の設定によって改善できる可能性があります。一般的に宿泊料金を下げると客室稼働率がアップする傾向があり、これを利用して調整することが可能です。例えば、年間の平均稼働率が75%で、2月の稼働率が50%、5月が90%だった場合だとします。この場合、2月は「値下げ」。5月は「値上げ」を検討することで、それぞれを理想値に近づけられます。これと同様に平日と祝日・休日、部屋のグレードの料金を見直せば客室稼働率をある程度調整することができるのです。
内部的要因3:キャンペーン・企画
ホテルが企画する有名人などの講演、催事なども客室稼働率の変動の要因のひとつです。観光ホテルやシティホテルの閑散期など、客室稼働率が低下する時期にこのような企画が積極的に行われる傾向があります。また、結婚式の機能を備えるホテルではキャンペーン割引などをPRすることで、出席者の客室利用につなげることもあります。
客室稼働率の変動に関わる外部的要因
続いて、客室稼働率が変動する外部的な要因について紹介します。一般的に外部的要因は、内部的要因と比べるとホテル単独で大きな改善などを図ることが困難です。事前に外部的要因を把握し、日頃からのリスクなどへの準備を行うことが重要になります。
外部的要因1:周辺施設、地域の観光需要など
特に観光ホテル・旅館の場合、周辺の観光地の知名度の上昇などによる需要の増減に客室稼働率が大きく左右される傾向があります。特に2019年までは、インバウンド観光客の増加によって宿泊業界全体の客室稼働率が上昇する傾向がありました。
■観光地の知名度が上下する要因
・テレビなどのマスメディアで紹介される
・ドラマ、アニメのロケ地になる
・SNSなどでバズることで、広く認知される
・観光雑誌で特集される
これらによる客室稼働率が増加する理由になります。逆に観光地そのものの知名度が下がるほか、リピーターを獲得できない場合は訪問者が減って客室稼働率も低下する可能性が高まります。そのため、これらの影響を受けやすいホテルの関係者は魅力的な観光情報の発信や地域づくりなどに積極的に関わって、認知度・好感度の上昇に努めなければなりません。事実、観光ホテルや旅館の多くは地域の観光協会などに参画しているケースが多いです。
外部的要因2:感染症・不況などの発生
全国的に感染症が発生して、宿泊そのものが控えられる風潮になるほか、経済が不況に陥り娯楽や企業の支出を控える傾向が強まると客室稼働率が低下します。前者の場合、特に付近の施設や立地する地域で感染者が発生したケースでは大きなリスクが伴います。普段から感染症の対策を把握して迅速に実行、ホームページなどでその情報を発信するなど、日ごろから対応を策定してスタッフに共有しておくべきでしょう。客室清掃においても衛生対策を充実しておく必要があります。
内部・外部の情報にアンテナを張っておこう
清掃の効率向上や適切な準備のためには、日ごろからアンテナを張って客室稼働率に関わりそうな内部・外部の情報に掴んでおく必要があります。勤務先のイベント・催事情報のほか、新聞やネットで小まめな情報をおすすめします。