感染症対策にも活用。IoTによるホテル・旅館のスマート化の事例とポイント
2020.09.16
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人材不足や外注費の高騰、非効率な組織体制など、ホテル経営には人やお金、モノの悩みが尽きません。このような課題に加えて、2020年に流行した感染症の対策にも備えるために、近年、業務フローやホテルの仕組みそのものの「スマート化」を図る施設が増えています。ロボットやタブレット、スマホの導入などスマート化のポイントは様々ですが、共通しているのは「IoT(モノのインターネット)」の活用です。今回は、これから宿泊業界でスタンダードになるかもしれない「施設のスマート化」と具体的なIoTのポイントについて紹介します。
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ホテル・旅館など宿泊施設の「スマート化」とは
スマートウォッチなどの「スマート●●」という言葉を、誰しも一度は生活のなかで目や耳にしたことがあると思います。スマートウォッチは腕時計を「スマート化」した製品です。スマート化の定義は明確には定められていませんが、一般的には既存の製品に情報システムなどを搭載して、新たに管理・制御能力を加えたり、強化したりすることを指します。また、製品だけでなく会社経営や業務フローなどソフト面を情報システムを使って、スリム化・高効率化を実現することも、スマート化と表現されることが多いです。
スマートな体験をウリにする!?スマートホテルとは
マンパワーを中心にホテルを運営している管理者やそのような職場で働いているスタッフなどにとっては、スマート化にピンときていない人も少なくないのではないでしょうか。そんな人にぜひ知ってもらいたい代表的な「スマート化」の事例を紹介します。
スマートな暮らしを体験できるホステル
2016年、福岡県にオープンした日本初のスマートホステルは、スマート化した生活を体験できると話題になりました。例えば、部屋に設置されているタブレット1台で客室の照明・空調・鍵などがすべて操作できます。また、客室に設置されているロボットとスマートフォンを連動することで、フロントからのメッセージなどを部屋に帰ってきたタイミングで自動的にやりとりすることも可能。さらに福岡の観光情報などが搭載された端末と、スマートフォンのイヤホンジャックを繋ぐだけで簡単に入手されるなど、他のホテルにはない一歩先の生活が体験できます。
IoTによるビジネスホテルの「完全無人化」も実現
感染リスクが高いホテルの業務といえば、対面しなければならない「フロント業務」ではないでしょうか。また、ホテル・旅館の経営を改善ための方法の1つとして「省人化」が挙げられることが多く、フロントに常駐するスタッフの削減はよく課題に挙げられます。実際、タブレットをフロントに設置することで、ホテルに人員を配置しない無人運営を実現したホテルは既に存在します。その一例を紹介しましょう。
あるIT企業が運営する小規模のビジネスホテル(5~20室程度)では、フロントにタブレット端末と外国人宿泊者向けの説明書のみを設置し、ホテルから離れた場所にある運営本部で複数のホテルのチェックインや本人確認などをまとめて行っています。宿泊客は予約時に自動的に送信される「予約コード」をタブレットに打ち込み、ビデオチャットを通じて本人確認すればチェックインできます。
チェックイン後はスマートロックの開錠キーを案内すれば、宿泊客は部屋の利用が可能になります。タブレット端末の操作を分かりやすく、手順も少なくすることでスムーズなやりとりを実現。また、フロントのやりとりだけではなく在庫・予約管理、部屋割り、決済、チェックイン、鍵の受け渡しを情報システムによってスマート化することで、経費を大きく削減できるので、より高い利益の確保につながるとされています。
密の「見える化」で感染症対策
2020年3月から猛威を振るった感染症によって、宿泊業界は大きな打撃を受けました。6月になるとある程度収束したものの、感染症対策は宿泊業界にとってより大きな課題になると考えられています。
そのような状況で、感染症対策にIoT技術を用いて取り組んでいるのが「星野リゾート」です。感染拡大を防ぐ、密閉・密集・密接をまとめた「3密」が発生しづらい環境を作るため、リアルタイムに大浴場などの混雑度を計測するアプリケーションを開発しました。
■星のリゾートの「3密回避」アプリケーションの機能
・利用者のカウント
・リアルタイムでクラウドとデータ連動
・大浴場のほか、様々な設置場所に対応
・小さくて違和感の端末のデザイン
宿泊客のスマートフォンで、設置端末のQRコードを読み込めば簡単にアクセス可能です。ウェブから簡単に情報を閲覧できるので、ストレスなく混雑していない時間帯を見計らってパブリックスペースを利用できます。
※出典:星野リゾート「大浴場の混雑度がスマホで分かる「3密の見える化」サービス開始」
AI清掃ロボットの無償提供も
宿泊者が利用した部屋を清掃する客室清掃員をはじめ、パブリックスペースを掃除するスタッフも感染リスクの低減もホテル経営において重要な感染症対策の1つです。そのため、IoTを利用した掃除ロボットの需要はこれから高まると考えられています。
ソフトバンクロボティクスが提供するAI清掃ロボット「Whiz(ウィズ)」も、宿泊施設をターゲットにしています。Whizはカーペットなどの床清掃用の乾式バキュームクリーナーで、1度掃除したルートを記憶し、2回目以降はスタートボタンを押すだけで自律走行してゴミを吸引できます。Whizには「スマートAI」が搭載されており、人の動きを察知して自動で作業を止められるほか、段差なども回避可能。管理アプリで清掃完了や緊急停止などの状況もリアルタイムで通知できます。
2020年6月現在、AI清掃ロボット「Whiz」はホテル・旅館に一定期間、無償提供されています。細かな条件はあるものの、7月30日まで申請可能なので興味がある人は一度、検討してみてはいかがでしょうか。
※出典:ソフトバンクロボティクス「コロナに負けるな!施設応援キャンペーン」
ホテルの課題をIoTソリューションで解決
フロントの無人化、全自動の掃除機、感染症対策など、ホテルが抱える「人材不足」、「スタッフの高齢化」、「感染リスクの低減」という多くの課題に最新の技術でアプローチする施設や企業の動きが活発になっています。このようにIoT機器を使った業務改善などを「IoTソリューション」といい、現在、宿泊業界だけでなく多くの企業で取り組まれています。このような取り組みは、今後ますます主流になると予想されます。IoTの技術や製品は、日進月歩で進化するので常に最新の情報を手に入れられるようにアンテナを張っておくことをおすすめします。