高まる「分散型オフィス」の運用の課題
2021.07.21
業界コラム
世界的なパンデミックをきっかけに、オフィス運営のあり方が見直されてきています。企業は通勤時間の短縮や感染症対策、適切なワークスペースの確保など様々なニーズを持っていますが、「分散型オフィス」はその解決策になるかもしれません。しかし、サービスの概要が分からず、利用を躊躇する企業もあるでしょう。そこでこの記事では分散型オフィスの概要や事例、課題などについてまとめました。
新型コロナや働き方改革で注目される「分散型オフィス」
分散型オフィスが注目され始めたのは、新型コロナウイルスと働き方改革に要因があります。なぜならば、分散型オフィスが持つメリットが新型コロナウイルスの感染拡大防止と、働き方改革による多様な働き方を実現する画期的なシステムと考えられているからです。従来のように多数の社員が一堂に会する「集約型オフィス」にもメリットはありますが、感染症対策が必須の現代では、分散型オフィスの概要を知り、適切に活用することが重要です。
分散型オフィスで3密を回避
現代の建物は新型コロナウイルスのように飛沫感染する病原体に耐えられる構造になっていません。オフィス街に立ち並ぶ高層ビルに人が集中することで、換気の悪い密閉空間が出来上がり、3密状態が発生するからです。例えば、ソウルで発生したクラスターは混雑した高層ビルで発生しました。
一方、そのような状況を打破する起爆剤として期待されているのが今回紹介する分散型オフィスなのです。少人数で働き、かつ、不要な通勤を減らすことで感染リスクは低下します。加えて通勤による駅の混雑も緩和され、自社だけでなく社会全体の感染拡大防止にも寄与することでしょう。
分散型オフィスと働き方改革は相性抜群
働き方改革は一億総活躍社会の実現に向け、労働力を確保するための施策です。長時間労働の是正や非正規雇用の格差改善など様々な取り組みが含まれますが、その一つに「働き方の多様性を可能にする環境を作り」があります。その点、分散型オフィスは通勤時間の短縮や生産性の向上が期待できるので、例えば育児をしながら仕事を継続することも可能になるのです。
以上の様に、新型コロナの蔓延と働き方改革が追い風となり、分散型オフィスが脚光を浴びるようになりました。
分散型オフィスの種類
ここまで分散型オフィス全般の特徴について解説してきましたが、分散型オフィスには様々な種類があります。サービス内容は類似していますが、それぞれに強みを持っているので、自社に合ったサービスを利用することをおすすめします。
サテライトオフィス
サテライトオフィスは、本社から離れた場所に設置されたオフィスのことを指します。支社・支店に似ていますが、サテライトオフィスの方が小規模、かつ、あくまで働き方の多様性を実現するためのオフィスという意味合いがあります。例えば、いわゆる営業支店は営業活動を円滑に進めるために各地にオフィスを点在させています。これは「機能面」を意識した仕組みです。一方、サテライトオフィスは社員目線で「働き方の自由」を確保することに主眼を置き、通勤しやすい場所にオフィスを点在させるのです。
■サテライトオフィスのメリット
・ICTの活用によって場所や時間にとらわれない働き方が出来る
・ワークライフバランスの向上にも貢献
・地方に設置した場合、厚生労働省の支援を受けることが可能で、さらにBCP対策になる
SOHO
SOHOとは「Small Office Home Office」の略称です。明確な定義づけがされていない用語ですが、一般的には小さなオフィスや自宅で働くというワークスタイル、あるいはそのような物件、仕事場を指しています。オフィス物件と異なる点は、あくまで「居住用」として利用することです。そのため、賃料および初期費用を抑えることが可能です。
ただし、他の入居者への迷惑がかかる業態(人の出入りが多い等)には向いておらず、その場合はオフィス物件を探すことになります。逆にプログラマーやデザイナーなど人との関わりがネット上で済むような業態だと、低コストというメリットを十分享受することができます。
■SOHOのメリット
・コストが低い
・寝泊まりが出来る
モバイルオフィス
モバイルオフィスとは、オフィスの外で働く形態です。他の分散型オフィスと異なり、オフィス自体を用意する必要がありません。例えば、移動に使う車をカスタムし、オフィス機能を持たせて、デスクワークや打ち合わせにも利用するというアイデアが実用化されています。ただし、セキュリティ面の懸念や気軽なコミュニケーションには不向きな側面もあるので事前に防止策を講じなければなりません。
■モバイルオフィスのメリット
・場所を選ばず柔軟な対応が可能
・光熱費などの削減
・地方での人材を確保しやすい
分散型オフィスの運用の課題
働き方改革の実現と感染症の拡大防止を同時に実現する可能性があるなど、一見すると分散型オフィスにはメリットしかないように思えるかもしれません。しかし、実は分散型オフィスの利用が必ずしも生産性の向上に直結しないことも事実なのです。ここでは分散型オフィス運用の課題について個別に紹介していきます。
コミュニケーション不足
リモートワークは通勤負担も少なく、自由な場所で働けるので生産性が高い働き方だと表現されることが多いです。一方で拠点が分かれることで従業員同士が対面でコミュニケーションをとる機会が減ります。そのため何も対策をしない状態だと、社員の不安感が強まったり組織力の低下を招くことでしょう。また周りの社員の進捗が確認できないのもデメリットです。
このような問題にはコミュニケーションツールの導入で対応しましょう。社内SNS、チャットツール、オンライン会議等でオフィスワークに近いフォロー体制を構築することが大切です。ただし、人事評価において遠隔で働く社員だけが不利益を被る可能性があるなど、一定の弊害も予期されるので、その都度対策を立てる必要があります。
設置コスト
分散型オフィスの利用には設置コストとの兼ね合いを十分に検討すべきです。設置コストが会社の事業運営を圧迫するならば、業務の生産性が上がっても得られる利益が少ないからです。家具や什器の購入費を見積もった上で、総合的な判断が必要になるでしょう。
しかし、初期コストの問題を解決できるサービスも存在します。例えば都内で分散型オフィス向けのパッケージを提供している某企業では、社員10人が利用することを想定して月額5万程度からオフィスを貸し出しています。こちらは、机や椅子、パーテーションなどの設備も合わせての金額です。自社のニーズにマッチしていれば利用しても良いかと思われます。
セキュリティリスク
社員が多拠点に分散することで、拠点ごとの人数は少なくなります。そのためセキュリティレベルはより高めなくてはなりません。また、拠点ごとの施錠管理が必要になるので、それにかかる費用もあらかじめ予測しておくことが大切です。
セキュリティリスク、あるいはその対策費用の増加に対する解決策として注目されているのが、クラウドシステムを活用した施錠管理です。オフィスへの入退室がクラウド上で監視できるので常時施錠管理ができるだけでなく、カギの紛失時には該当のカギの施錠権限を削除することも可能です。
自社の実情を考慮して分散型オフィスのご利用を
現在は多様な働き方が推奨される時代です。実際、分散型オフィスが感染症対策やワークライフバランスの向上に寄与している部分もあるでしょう。しかし、業種や会社の実情を鑑みず、やみくもに利用することは、時に業務効率を下げることにも繋がります。そのため本記事で紹介した長所・短所を慎重に吟味した上で、利用を検討してみてください。集約型と分散型のどちらかを選択するか、あるいはハイブリッド的な働き方をするか、選択肢は1つではありません。