衛生管理、環境衛生、公衆衛生の違いとは。具体的な方法と清掃のポイントを解説
2021.05.26
業界コラム
2019年末からの新型コロナウイルス蔓延に伴い、「衛生」に対する価値観が大きく変容しました。衛生は基本的に清潔さを表す言葉ですが、「衛生管理」「環境衛生」「公衆衛生」と似たような表現が存在します。今回はこれらの定義や違いに触れた後、それぞれを実現するための清掃のポイントを解説します。官公庁など信頼性の高い情報をもとにしているので、事業者の方は是非ご覧ください。
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衛生管理、環境衛生、公衆衛生の違い一覧
「衛生管理」「環境衛生」「公衆衛生」は人々の健康を守り、清潔に保つのが目的です。ただし、清潔にする対象や衛生活動を実施する主体、細かい目的等は異なります。例えば「衛生管理」は仕事場での衛生に関連する用語ですが、「環境衛生」は更に対象範囲が広く、地球規模の衛生を指す用語です。ここでは導入として3者の違いを簡易的に表でまとめました。それぞれの定義については、その後、個別に解説します。
■衛生管理、環境衛生、公衆衛生の違い
衛生活動を行う主体 | 対象範囲 | 概要 | |
---|---|---|---|
衛生管理 | 事業者、従業員等 | 職場、事業場 | 各職場・各事業場を清潔にすることで労働者や消費者の安全を守る |
環境衛生 | 国、世界全体 | 生活環境から地球全体まで | 環境汚染問題などを扱う |
公衆衛生 | 市、町、国 | 人間社会全体 | 人間の健康に関わる諸問題(上下水道整備等)に組織的に対応する |
衛生管理とは
衛生管理とは、広義に捉えると、労働者あるいは消費者を病気や災害から守るために必要な措置をとることです。ただし、業界や団体によって定義は微妙に異なるので、代表的なものを2つ紹介します。
1.職場における衛生管理
厚生労働省のHPでは、労働者・事業者目線での「衛生管理」が紹介されています。厳密には職場で衛生管理を担う「衛生管理者」についての紹介ですが、職場における衛生管理は以下のように解釈できます。
・労働者の危険や健康障害を防ぐこと
・労働者に安全や衛生に関する教育を行うこと
・健康診断をはじめとした労働者の健康管理を実施すること
・労働災害の防止または再発の措置をとること
・設備や作業方法が労働者の安全上問題ないか、定期的に作業場を巡視すること
2.食の安全における衛生管理
「衛生管理」という用語は飲食業界において多用されています。特に令和3年6月1日からは、すべての食品等事業者を対象として、衛生管理の基準が制度化されました。具体的には、HACCP(ハサップ)という衛生管理の手法を取り入れることになりました。
HACCPとは製品(食品)が作られる各フェイズで継続的な監視・記録をして、安全性を証明するシステムです。例として、原料の入荷、保管、加熱などの各フェイズで、逐次、安全管理をします。従来も衛生管理自体は行われていましたが、各フェイズごとのチェックはなく、製品が完成した段階で最終検査を行うだけでした。HACCPを導入することで以下のようなメリットがあります。
・社員の衛生管理への意識がアップ
・社外に対して、自社の衛生管理体制を根拠づけて説明できる
・製品トラブルの対応が迅速になる
・クレームや事故が減少
・ロス率が下がる
・取引先増加
・生産効率の向上
以上のように衛生管理は業界によってその意味合いは少し異なっています。今回ご紹介した2つの例も、前者は労働者の健康管理が主ですが、後者は消費者の目線も含まれています。
※出典:厚生労働省「衛生管理者について教えて下さい。」
※出典:厚生労働省「HACCP(ハサップ)」
※出典:公益社団法人日本食品衛生協会「HACCPによる衛生管理とは」
環境衛生とは
環境衛生とは人々の健康を守るため、身の回りの状況を改善することです。先述の衛生管理は労働とセットで語られますが、環境衛生は大気汚染などのいわゆる自然環境まで含んでいます。
ただし、環境衛生の意味は時代によって変化します。実際に、以前は感染症や食中毒等の予防が主な目的でしたが、現在では環境汚染問題の解決がメインテーマとなっています。これを裏付けるように、環境衛生の草分け的存在である日本環境衛生センター(生活環境や地球環境保全を目的とする一般財団法人)の事業も、以下のように変化しています。
■日本環境衛生センターの事業内容の歴史および変遷
・1950年代
当時は生活環境が整備されておらず、ネズミや害虫駆除の普及活動を中心に事業展開していました。
・1960年代
高度経済成長に伴って公害問題が起きた時期です。大気汚染、水質汚濁、悪臭防止などの活動を行いました。
・1970年代
産業廃棄物の実態調査や有害物質分析に注力しました。他にも国際事業に取り組むなど活動範囲が海外に広がりました。
・1980年代
廃棄物発生量の増加やダイオキシン問題を受け、地球温暖化対策に着手しました。
・1990年代
地球温暖化が問題となる中、アジア大気汚染研究センターが設立されました。
・2000年代
循環型社会形成のため、廃棄物処理関連業務を強化しました。
・2010年代
再生可能エネルギー事業を展開しました。
以上の歴史が示す通り、害虫駆除等のいわゆる生活環境の改善から、地球規模までテーマが広がっています。人々を取り巻く環境を改善する目的はそのままに、対象範囲は広がり続けているのです。
※出典:札幌市保健所環境衛生課「環境衛生課ってどんな仕事をしているの?」
※出典:一般財団法人 日本環境衛生センター「センター概要|JESC」
公衆衛生とは
公衆衛生とは、人間社会の健康問題を解決するために、各コミュニティや国単位で対抗策を考える組織的な衛生活動です。「臨床・治療」が患者個人を対象とするのに対して、公衆衛生は「集団」を対象とするのが特徴です。日本における具体的な対抗策・活動内容には、以下のようなものがあります。
・母子保健
・伝染病予防
・生活習慣病対策
・精神衛生
・食品衛生
・住居衛生
・上下水道
・屎尿塵芥処理
・公害対策
・労働衛生
ちなみに、公衆衛生は国際医療協力と密接な関係を持ちます。海外の経済的に貧しい地域では、日本のような医療環境や薬剤は用意できないので、患者個人に最大限の治療を行うことはできません。この状況に対応すべく公衆衛生的な観点に立って、「集団」、多くの命を救うために必要な治療のバランスを考えるのです。
※出典:特定非営利活動法人シェア=国際保健協力市民の会「公衆衛生」
衛生管理、環境衛生、公衆衛生と清掃の関わり
衛生管理、環境衛生、公衆衛生は清掃と密接な関わりを持っています。ここではそれぞれにおける清掃のポイントの一部を解説します。ただし、本来これらの概念は明確に区分されていない部分もあります。例えば、公害対策は環境衛生の範疇ですが、公衆衛生の活動範囲にも含まれます。それを踏まえた上で、参考としてご覧ください。
衛生管理における清掃のポイント
衛生管理が特に重視される食品等事業者の例として「小規模な青果物小売業」を挙げます。先述のHACCPを実施するにあたり、前提条件として「一般的衛生管理プログラム」を実施することが大切です。このプログラムでは、以下のような場所を清掃する必要があります。
・施設、設備
・調理器具
・廃棄物、排水溝
・従業員(手洗い、手指消毒)
これらの場所を清掃することが、感染症対策、食中毒予防、臭いや鼠族・昆虫対策に繋がります。
環境衛生における清掃のポイント
環境衛生には適切な廃棄物処理および清掃が必要です。日本環境衛生センターの隔月誌には廃棄物処理と新型コロナウイルスを紐づけた企画が掲載されています。その中で、新型コロナの患者が宿泊している施設から排出される廃棄物を処理する際は、換気やマスクの着用を徹底することが記載されています。その他、廃棄物処理と公害など、テーマ毎に清掃のポイントが紹介されています。
公衆衛生における清掃のポイント
公衆衛生に関する法律には「浄化槽法」というものがあります。公衆衛生の活動範囲には上下水道が含まれていますが、本法は浄化槽による尿などの適切な処理を図るためのものです。ポイントというよりは法律に沿った清掃が求められます。なお、公衆衛生上、保守点検が必要と認められた時には、都道府県知事から清掃命令に関する改善命令が出されることもあります。
※出典:厚生労働省「小規模な青果物小売業 HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」
※出典:一般財団法人 日本環境衛生センター「『廃棄物処理業における新型コロナウイルス対策ガイドライン』について―― “With コロナ”正しく恐れ、適切に行動するために」
適切な清掃で衛生管理、環境衛生、公衆衛生をキープ
今回は衛生管理、環境衛生、公衆衛生の定義や清掃との関連についてまとめました。これらの全てが、身の回りの状況を改善するためのものですが、細かい目的は異なります。途中で地球規模の話も出てきたので、どこか他人事のように感じるかもしれませんが、仕事においては衛生管理が大切ですし、毎日のゴミ捨ては環境衛生の一部です。個人や各事業所で出来ることから意識するのも、ご自身はもちろん、人類のために大切です。