ヒューマンエラーをなくすために役立つ技術を――子どもたちの送迎バス置き去り事件を防ぐ安全装置
2023.02.22
業界コラム
2021~2022年にかけて、立て続けに悲痛な事故がニュースになりました。
認定こども園・保育園に通っていた園児が、送迎バスのなかに置き去りになり、熱中症で死亡するという事故が発生しました。
バスは送迎を終えていたため、鍵がかかり駐車場に停まっていました。
小さな子供の手では中からドアを開けられず、助けを呼ぶこともできなかったという報道に、多くの人たちが胸を痛めました。
死亡に至らなくとも、子どもがバス内に置き去りになってしまう事故は、実は数多く発生しています。
どうして置き去り事故は起きてしまうのか。
どうすれば事故を防ぎ、もしも置き去りが発生してもすぐに助けられるのか。
痛ましい事故を繰り返さないために、国は子どもの送迎バスの安全を徹底する対策を始めました。
送迎バスの置き去り事故はどうして起きる?
園の規模にもよりますが、送迎バスに使われるのは小型バスかマイクロバスが使用されることが多いです。
他のバスとの大きな違いは、子どもたちに合わせて座席が小さめに作られていること。
このため、通常のバスよりも座席がつまって見える印象があります。
そして、送迎バスの安全確認については、今まで法律などで決まったガイドラインは設定されていませんでした。
各施設ごとに、独自の安全確認ルールを作っている状態です。
多くの施設で行われているのは、「乗車時・降車時の人数の確認」「子どもが降車した後のバス内の点検」です。
ほとんどが、運転者や乗務員による目視のみで行われています。
用紙記入式、アプリやパソコンによる入力などで確認チェックをする場合もありますが、記録を残していない施設も少なくありません。
事故が起きてしまった時の、ヒューマンエラーとは?
事故が起きた、起きそうになった時にはどんな状況が多いのでしょうか。
日々、子どもの安全のために様々な対策を行っている施設がほとんどです。
そんななかでも、ちょっとしたきっかけでヒューマンエラーが重なってしまうことがあるのです。
・運転者、乗務員が一定ではなく、ルールが徹底されない時がある。
・臨時の職員など、業務に慣れていない人が送迎を行う時がある。
・他の業務に追われてしまい、確認を忘れてしまう。
・子どもが休園する、親が迎えに来るなどの送迎予定の変更連絡が行き届いていない。
・送迎バスに間違って乗ってしまった子どもの対応に気をとられ、確認を忘れてしまう。
これらに共通しているのは人出不足による業務過多、運転者・乗務員が固定されていないことです。
ルールをきちんと守るための精神的余裕や、どの運転者が送迎を行っても、同じ「安全確認」が行われるシステムが必要とされています。
子どものバス送迎の安全管理を徹底するために
送迎バスの置き去り事故の主な原因としてあげられたのが、子どもたちが乗り降りする人数カウントを怠ったこと、バス内に子どもが残っていないかのチェックをしていなかったことです。
こういった原因をなくすために、子どもたちの「所在確認」と「安全装置の設置」が義務化されます。
【所在確認】
運転者・乗務員を誰が行うかに関わらず、バスの乗車・降車時に子どもの所在確認を確実に行う。
【安全装置の設置】
ガイドラインの条件を満たした安全装置を車内に設置する。
対象となるのは、
・幼稚園
・保育園、保育所
・認定こども園
・特別支援学校、障がいのある子どものためのデイサービス施設
といった、子どもの送迎をするためのバス。
全国でおおよそ4万4000台が対象となっています。
義務化の開始は、2023年4月。安全装置の設置までの経過措置は1年間とされていますが、これまで夏場の置き去りで死亡事故が起きていることから、6月までの設置が求められています。
所在確認を怠ったり、経過措置期間内に安全装置を設置しなかった場合、園や施設などに業務停止命令が下されます。
子どもの送迎バスには、どんな安全装置が必要なのか?
これまでも、子どもの送迎バスに取り付けられる安全装置は開発・販売されています。
しかし今回義務化された「安全装置」には、最低限の条件を満たしている必要があります。
ガイドラインでは条件を満たした『降車時確認式の装置』か『自動検知式の装置』のどちらかを設置することが義務付けられています。
すでに装置を取り付けている場合は、条件をクリアしているかどうか?
これから設置する場合は、どんな機能が必要なのかをしっかりチェックしましょう。
【降車時確認式の装置】
1. エンジンを停止した後、運転者・乗務員に車内の安全を確認を促す警報(アナウンス)を行う
2. 車内を確認し、運転者・乗務員が車両後部に設置された装置を操作して、警報(アナウンス)を止める
3. 確認が一定時間行われなかった場合、非常事態を知らせる警報を車外に向けて鳴らす
【自動検知式の装置】
1. エンジン停止から一定の時間がたったら、取り付けられたセンサーが車内全体を検知する
2. 置き去りにされている状態の子どもを検知した場合、車外に向けて警報を鳴らす
安全装置の設置に定められたガイドラインを守ろう
求められる機能のついた『降車時確認式の装置』『自動検知式の装置』であっても、下記のガイドラインをクリアしてなければいけません。
・運転者・乗務員が確認を怠った場合は、すみやかに車内への警報を行い、15分以内に車外への警報を発すること。(自動検知式の場合は、15分以内にセンサーの動作を開始)
・子ども等がいたずらできない位置に設置すること。(車両上部への設置はOK、車両下部はNG)
・どのような環境下でも正常な動作をするために、十分な耐久性があること。(-30℃~65℃への耐温性、耐震性、防水・防塵性など)
・装置が故障・電源喪失した場合、運転者や乗務員にアラーム等で故障を通知すること。
安全装置設置のための補助金制度も始まる
送迎バスの安全装置は、バスに元から設置されている場合と、後付けで装置を付ける場合があります。
すでに運用している送迎バスに新たに装置を設置するときにネックになるのは、予算です。
今回、安全装置の設置の義務づけが行われることから、国は設置にかかわる補助金として9割(1台につき上限20万円)補助を検討しています。
ヒューマンエラーを起こさない、安全装置とは
送迎バスの安全確認を確実に行うためのシステムのなかでも、注目されている技術をチェックしてみましょう。
AI顔認証を使って、スムーズで確実な安全確認を
AI顔認証は、今までオフィスの入退館チェックや防犯システムなどに使われていた技術です。
「顔認証」と「送迎バスの安全確認」を組み合わせ、スムーズで確実な置き去り防止システムが開発されています。
【顔認証の安全確認システムの流れ】
1. 運転者の「顔登録」を行う
2. エンジン停止後、バス内に警報音が流れる
3. 警報音を止めるため、バス最後部に設置された「顔認証端末」まで移動して認証を行う。
【顔認証システムのメリット】
・運転者の登録が面倒ではない。(急な乗務員変更にも対応しやすい)
・必ず運転者がバス最後部まで移動しないといけない。(目視チェックを行う流れができる)
・顔認証端末を覗くだけなので、誤操作を防げる・触れないので感染症対策もできる。
置き去りを防ぐためには、子どもたちが降りたあとの目視チェックが重要です。
しかし職員の体調や、日によって変わる忙しさなど、さまざまな状況が重なって起きるヒューマンエラーをゼロにするのは、とても難しいこと。
新しい技術と人の力を組み合わせ、送迎バスの置き去り事故を未然に防ぎましょう。